第14回 “green drinks ひばりが丘”開催レポート
2024.10.11
8月31日に、ひばりテラス118で第14回 “green drinks ひばりが丘”を開催しました。
その報告を、ライターの永見薫さんに寄稿いただきました。
ーーー
このイベントは「環境」や「まちづくり」「持続可能性」などをテーマとして、ドリンク片手に気軽に語り合う交流会です。
実に6年ぶりのリアル開催となる、今回。テーマは「まちとにわと不動産」です。日ごろエリアマネジメントや不動産の分野で活動をする3名のゲストをお呼びし、「愛のある」まちづくりと、住みたいまちを選び取る・維持していくために必要なこと、をクロストーク形式にて話しました。
【スピーカー】
HITOTOWA INC. 荒 昌史さん
東京R不動産 山岸 奏乃花さん
コスモスイニシア 元藤 真人さん
当日の参加者は18人。ひばりが丘のことを知っている人、知らない人、まちづくりに興味がある人、なんとなく心がうごいた人など……さまざまな動機を持った人が、関東近郊や遠く福岡県から集まりました。
夏の夕暮れに和やかな雰囲気で始まったイベント。「まちにわひばりが丘」事務局長の若尾さんがファシリテートして会が進行します。
今回スピーカーとして参加したHITOTOWA INC.の荒さんは「まちにわひばりが丘」の企画に関わった方。このことがきっかけで、現在は東久留米市の学園町に転居します。昨年にはあらたなプロジェクトが始動。学園町を中心に、”不動産の承継に悩む人が暮らすあらゆる地域とつながりたい”と「ひととわ不動産」を立ち上げました。
そして、ちょっとクセのある愛すべき家・事務所・店舗など様々な不動産を揃える東京R不動産。ここでスタッフとして働く山岸さんは東久留米市を始め、多摩地域の新たな取り組みにどっぷりと関わっています。ひととわ不動産ともただいま協業中です。
「自然や環境といった魅力を生かすような住宅や働く場をつくるポテンシャルがある」とその魅力を話してくれました。
そして、元藤さんはまちにわとはご縁の深いコスモスイニシアの所長として日々住まいについて考えるお客様と接しています。コスモスイニシアは、ひばりが丘団地再生事業の際にもお世話になり、そしてこの秋に、良き隣人を増やすための共創プロジェクト「ひばりが丘connect」が始まったばかりです。これから「ひばりが丘に住みたい」世帯の住み替えを促進することで、持続的な街の発展を支えていこうとしています。
ゲストの3名はみなさんがどのようなことに興味を持っているのか?と、参加者の眼差しと熱量を感じながら、クロストークを展開していきます。
最初のトピックは今の不動産とコミュニティが持つ良さと課題。そこで事務局の若尾さんは「まちにわひばりが丘の個人会員は、転居が理由で退会する人がいる。しかしその後に新たに転入してきた人に対してまちにわの取り組みや仕組みのことを話せる機会がない。新しくまちに住み始める人とはタッチポイントが少ないことにモヤモヤしている」と課題を話します。
元藤さんも深く頷き、「新しく住まわれた人が活発に関わるところがどうしても少ない形になってしまう」と悩みを吐露していました。
印象的だったのは「今の時代、箱を作るだけが不動産ではないんですよね。そこで人の暮らしや活動が生まれているわけです。たしかに”不”動産は動かせるものではないですが、思いや心を動かすことはできる。これからはそういったソフトの部分をうごかして磨いていきたいですし、そのために私たちは力添えしていきたい」という言葉。
たしかにこれからの時代、物だけではなく、人の思いやりや感情にフォーカスしていくと、まちで暮らす人たちの心地よさがアップしていきそうだと共感します。
今の世の中はどうしても物質的な価値で判断をしがちです。例えば家を選ぶ際に、HPで検索をしますが多くの人は駅距離や面積、間取り、築年数などの条件で選ぶことが多いのではないでしょうか?それは仕方のないことなのかもしれません。
だからこそ、「今後はこうした人の心やつながり、思いやりや感情の面にフォーカスしたまちや不動産の探し方を伝えていく必要があります」と元藤さん。
その言葉に山岸さんも深く頷きます。
「世の中には意外とコミュニティに飢えている人がたくさんいます。例えば祭りに毎年行っていて、それがなくなると思うと心理的にそういうつながりを求めて手伝いたい!と名乗り出る人たちがたくさんいる。
”このまちは人の関係性がある場所だよ”ということを前面的に周知することが一番必要なこと。つまりファンを作ることだと思います。
不動産そのものが、購入の際の動機ではなく、地域のイベントやコミュニティの雰囲気がよいから、そのまちの不動産を買う、という動機づけになるといいなと思っています」とこれまでの市場にあふれていた概念とは真逆の動機を提案します。
とはいえコミュニティの存在やあたたかさ、価値について理解をしてもらおうとすると、町の不動産屋さんにはなかなか難しいのかもしれません。しかし若尾さんは、まちにわひばりが丘こそ、家を求める人と、町の不動産屋さんとの橋渡しする役割になれるのではと熱を込めます。
「これからはまちに”愛のある不動産屋さん”が増えてくれたらいいなと思います。まちの不動産屋さんがお客様にご案内する前に『このまちの魅力をどう伝えたらいいですか?』と私たちのところへ相談に来てくれるくらいのやわらかい関係を築けたらいいのにと思います。
そしてお客様が不動産屋さんに相談に行くのではなくて、まちにわひばりが丘に『実は家を探しているのだけど』と相談しにきてくれるようになったらいいですよね」
不動産のオーナーが家を手放なさなくてはならないと思っている時に、誰に相談するかでまちの風景はガラリと変わってしまいます。
しかしそこにはまた一つ課題が。荒さんは戸建住宅の住み継ぎや承継に対する悩みを話します。
「物件の売買の時間軸とまちのファンを増やすためにかける時間軸が異なってしまうんです。家の相続は10ヶ月程度と限られた時間で実行をしなくてはいけない。つまり継ぎ手の気持ちを待つことなく急いで相続あるいは売却をしなくてはならないのです。
一方でまちのファンを作るには長い年月がかかります。すぐに売らなくてはいけないとなった際に、そのまちのファンである人に手にわたるかは未知数。つまり相続が始まるよりもかなり前から、まちやその土地への関心を抱いている人との関係作りが必要なのです」と話してくれました。
元藤さんもこれには同意。「不動産の営業マンは営業成績が大切。ゆえにスピード感を持ってやらなくてはいけない。ゆっくりじっくり取り組めないことへの歯がゆさを感じています。仲介業はお客様の資産で取引をしなくてはならない、自分の判断で全てを決めることができない難しさはある」という胸の内を明かしてくれました。
山岸さんも自身の経験を重ねます。
「今、各地で地主世代から、その子ども世代にまち並みが引き継がれており、スピード感がものすごい早く動かされている感じがします」
と、家を探す人や街を形成する人の外にあるもっと大きな理由で急がされていることに3人は憂慮していました。
だからこそ、ひととわ不動産を始めたんです、という荒さん。
「とにかく早く家をさばかなくてはならないというところが、不動産業界の価値としてある。その概念を変えたかった。『そろそろ愛のない不動産屋さん、やめませんか?』って。
部屋や区画というをただただ切り貼りする”点”の捉え方をせずに、面をコーディネートしていくかのようにまちを作り上げる提案をしていきたいですよね」
山岸さんは不動産会社ではなく、これからはオーナーと購入者の意思を問われる時代だとも言います。
「一番は売る方が意識を持つことが近道だな、と。例えば賃貸ビルのオーナーさんが「時間がかかってもいいからどうしても雰囲気の良いパン屋さんに入居してもらいたい」と、長期間粘って入居する人を待つことがあるんです。なんでもいいから空室に入ってもらいたい、というのではなく、こだわる人もいる。こんな感じで、家を手放す側が自分のこだわりを持つことでまちを変えることができると思うんです。
もちろん思いのある不動産屋はこれから増えていくけれど、大きな資本経済の中にあるまちの不動産屋さんの精神や行動はそんなに急変できる物ではない。でもオーナーサイドや買主の意識が変われば、その軸をコントロールできるのではないでしょうか」と力説しました。
キーワードは「愛のある不動産やさんの醸成と、自分ごととして売主と買主が不動産を舵取りすること」
参加者は熱心に4人のトークに耳を傾けて、時には笑ったり、考え込んだり、手を叩いたり、近い距離で高い熱量を浴びて会場全体が高揚していました。
果たして私たちはこれまでまちと不動産とどのようにかかわっていたのでしょうか? 思わず考えさせられますが、今日から一人ひとり少しでも考えるようになれば、それがまちの進化の第一歩なのではないでしょうか。
イベントの後半には参加者の質問や感想タイムと交流会がありました。
「世の中どうしてもすむ場所を値段や立地などの条件で決めてしまうことがデフォルトなのかもしれない。その現実とのギャップに難しさを感じます」と素直な思いを口にする人も。
またデジタル化する現代の流れを感じて、まちのコミュニティや不動産の売り買いでは人のコミュニケーションが減っていくことを憂慮している人もいました。
しかし4人は一斉にNOと言います。
「物件を売り買いする、内見する、そのまちの温度感や良さを実感するためには、必ず足を伸ばしてもらう必要があります。コミュニケーションをとり、目で見て触って感じてもらう必要がある。だから愛が大切なんです」と伝えます。
私たちはこれからの既存の市場を否定したいわけではない。これから新しい概念を作り、浸透させていくのだ。そうした気概を感じる希望に満ちたイベントとなりました。
撮影:千葉愛子 文:永見薫